〜プロットから読む 登場人物の変化=大胆な展開〜 「その女アレックス」ピエール=ルメートル 橘明美【訳】 文春文庫 「ALEX」 Pierre Lemaitre

評価:
ピエール ルメートル
文藝春秋
¥ 929
(2014-09-02)

この小説の面白さのひとつに、「登場人物の役回りの変化、逆転」がある。

 

登場人物の変化、逆転を具体的に記してみる。

 

・アレックス


第一部

アレックスは誘拐、監禁され暴力の被害者になる。

→後半ではカミーユたちの捜査によってアレックスの犯罪者としての顔が見え隠れしてくる。


第二部

アレックスは強靭な精神力で監禁場所から脱出する。

そして突然人殺しを開始する。完全なシリアルキラーだ。

 → 弱弱しい自殺:無慈悲な人殺しが少女のような自殺を遂げる。


第三部

幼少期の性虐待被害者

→ 巧妙な復讐者:アレックスが殺人を犯してきた本当の理由と兄への復讐をカミーユが助ける。

 

各部の矢印の右側はクリフハンガーとして効果的な展開となっている。
正が負になり、善が悪になる。

 

その他の登場人物もやってみよう。

 

・カミーユ

母、妻、子供、死人に縛られまともに捜査できない刑事。

→事件を通して仲間たちの存在に気付き、家族の死を乗り越え捜査に復帰する。再生。

 

・ル=グエン

うるさい上司

→捜査陣と上層部との間に立ち、戦ってくれる。カミーユをなんとか立ち直らせるために。

 

・アルマン

けち、たかり屋

→カミーユの母の自画像を買い戻し、それをカミーユに名も告げず送る。

 

・ルイ

金持ちの刑事

→カミーユの足りない部分を補ってくれる優秀な一人前の部下。

 

・ヴィダール

官僚主義の権化、鼻持ちならない予審判事

→トマという真の悪の罪を暴くためにカミーユたちのでっち上げを支持する。

 

・トマ

シリアルキラーの兄

→虐待者、近親相姦、真の犯罪者

 

・プレヴォ夫人

シリアルキラーの母

→虐待、近親相姦の黙認。娘を使った金儲け。

 

・被害者たち

平穏な暮らし

→未成年のアレックスを買っていた。

 

※登場人物の役割の逆転はその逆転の仕方が大きければ大きいほど面白いことがわかる。

 またこの小説の凄さは登場人物の多くは実は初めから「そう」なのであって変わるわけではない。

 気付かされるのだ。

 変わるのはアレックスとカミーユだけだ。

 ミステリーの基本である犯人はすでに「いる」のと同じで、読者はそうした登場人物の側面に気付くことができた瞬間に面白さを感じる。

 

〜プロットから読む 々柔〜 「その女アレックス」ピエール=ルメートル 橘明美【訳】 文春文庫 「ALEX」 Pierre Lemaitre

評価:
ピエール ルメートル
文藝春秋
¥ 929
(2014-09-02)
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フランスの作家ピエール=ルメートル作「その女アレックス」をプロットの組み立てという観点から俯瞰で眺めその面白さの秘密に迫る。

 

まず全体的な形、構成をとらえる。

それから章ごとの内容、伏線などを捉えていく。

大きいところ、形式的なところからだんだん細かく見ていく。

 

また感想は基本的に別記事で書くのでここではあくまで分析としたい。

 

内容がずばりと書いてある部分があるのでご了承いただきたい。

 

 

では早速。

 

 攅柔】

 

まず、この小説は、3部構成となっている。

 

序破急あるいは演劇でいうところの三幕構成の形をとっている。

 

第一部、第二部、第三部と分かれているのはそのまま小説内にも書かれている。

そしてこの小説の複雑なプロット、登場人物の多さからするとこの基本構造が物語全体をしっかりと支える柱となっていることがわかる。

 

一見この構成は単純に見えるがこの基本構造をしっかりと踏まえているからこそ面白い小説になっているのだろう。

これがもし複雑な形を採っていると「難しくてつまらない」小説になってしまっただろう。

 

さらに各部をもう少し形式的に見てみる。

 

大きく3区分されたこの小説は更に1〜62の通し番号をつけたシーンの集まりでできている。

 

具体的にはこうだ。

 

・第一部 1〜25章 (計174頁 25章 1章あたり5,586字)

 

・第二部 26〜50章 (計144頁 25章 1章あたり4,786字)

 

・第三部 51〜62章 (計112頁 12章 1章あたり7,421字)

 

※原文はフランス語であり、上記文字数は改行や空白は考慮していないためページ数も含めてあくまで目安の数値。ただし部や章の数はそのままである。文字の算出は19行×42文字/頁(頁内に改行も空白もなく文字が並んだとした場合の文字数)で計算。

 

こうしてみると第一部と第二部はまったく同じ章数の25だ。

字数に若干差があるが第一部はカミーユたち警察側の登場人物の会話が多く、第二部はアレックスのモノローグが増えるため、改行の数が影響しただけで字数には実はあまり差がない。

第三部は解決編あるいは解明編で第一、二部それぞれの約半分の12章だ。

 

文字数は第三部が多く見えるがこれは会話シーンがさらに多いからで実際はこれほどの差はないと思われる。

 

いろいろ注意書きが多くなってしまったが、この3幕構成は明らかに作者が狙った形だ。

 

その真意は作者に聞かねばわからないが、非常に短い章の連続で場面展開・場面移動をみせることで読者の読みたい欲求≒大小のクリフハンガーを何度も仕掛けている。

また短いシーンの連続は緊張感を高め、維持する効果もある。

 

全体を3部構成にし、そのシーンの中に伏線あるいはクリフハンガーを必ず仕掛けることにより飽きさせない、もっと読みたいと思わせることに成功している。


クリフハンガー(英:cliffhanger or cliffhanger ending) とは作劇手法の一つである。

劇中の感極まる盛上がる場面、物語の「クライマックス」、例えば主人公の絶体絶命のシーン、又は、新展開をみせる場面などで物語を「宙吊りのまま」中断して「つづく」としてしまうエンディングである。

 

次回は◆敕仂貎擁の変化=大胆な展開】として、プロットから見たキャラクターの魅力に迫る。

 

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