〜プロットから読む ヂ萋麌分析〜 「その女アレックス」ピエール=ルメートル 橘明美【訳】 文春文庫 「ALEX」 Pierre Lemaitre

評価:
ピエール ルメートル
文藝春秋
¥ 929
(2014-09-02)

【第二部のあらすじ】第二部 26章〜50章(計25章) 頁数144

 アレックスは監禁から脱出する。

 捜査陣は「女」を追う。

 捜査を尻目にアレックスは次々と殺人をする。

 カミーユは母と妻と子供の死を乗り越える。

 アレックスは自殺する。

 

 

26A、(25章から少し時間を戻し)アレックスが木箱から脱出。

 

27C、捜査班はアレックスがどうやって逃げたのかを考える。そしてその脱出の仕方からただの被害者ではないと思い知る。

 

28A、アレックスは用心して自宅へ戻る。

 PCで誘拐犯ジャン=ピエール=トラリユーの死を確認する。

 母と兄に連絡を入れる。

 そして自分の痛めつけられた下腹部を見る。自分の人生をそこに見る。

 

※28章は第一部の11章と同じように伏線があらわになっている。母と兄とアレックスの下腹部(性器)、この三つが出てくる。そして兄を追い詰めるために電話をかけている。11章では伏線として回想の形で兄を追い詰めるための睡眠薬や髪の毛の描写がある。

 

29C、25章で名前が出てくる濃硫酸で殺されたガテーニョの妻の聴取。

 ここではレアという名前の女(アレックス)が出てくる。これはナタリーと同一人物だとカミーユは見当をつける。

 

30A、アレックスは休息を取り回復していく。

 パスカルを殺害する様子が回想で描写される。

 そして新たな濃硫酸を作る。

 捜査の手が及ぶことがわかっているアレックスは引越しをする。

 第一章で登場していたフェリックスに近づき誘惑し、気を持たせるアレックス。

 

※ここでは、フェリックスを殺さない。ここで殺してしまうことにより物語が単純化するのを作者が恐れたのか。あるいはアレックスの家のそばだと足が付いてしまうことを恐れたアレックスの計算か。いずれにしろここでフェリックスを殺さず、この後女性(ザネッティ夫人)を殺すことで読者も捜査班も混乱しクリフハンガーとなる。

 

31C、ビストロ店主マシアク殺害についてカミーユは捜査、確認する。

 

32A、アレックスはローラと名乗りホテル・プレアルディにてザネッティ夫人に近づく。

 夫人からダンスホールへ誘われる。

 

33C、カミーユは女(アレックス)がその殺害方法から性被害者であり殺人鬼だと断定する。

 

34A、ダンスホールでの悪趣味なパーティーに参加させられるローラ(アレックス)。

 深夜に帰ってくるとアレックスは唐突にザネッティ夫人を濃硫酸で殺害する。

 

※殺人が突然すぎて驚いてしまう。

 

35C、カミーユは母親から学び、引き継いだ描画術で「女:アレックス」の絵を描く。

 女の脱出または逃亡の手段に不法就労の外国人ドライバーによる白タクを使ったと確信する。

 

36A、アレックスは木箱の檻の悪夢に悩まされる。

 しかしそれを振り払いフェリックスを誘い出す。

 

37C、女が性被害者でその復讐心から連続殺人を犯していると踏んだカミーユは、新たな被害者がザネッティ夫人という「女」でしかも老婆が殺されたことにより自分の推理に説明が付かなくなってくる。また、それをヴィダールは突いてくる。

 捜査は混迷する。

 

38A、アレックスはフェリックスとデートする。

 そしてフェリックスを濃硫酸で殺害。

 

39C、カミーユたちは女を乗せた白タクを突き止める。

 

40C、カミーユたちはアレックスの住まいと引越し業者も突き止める。アレックスがエマと名乗っていたこともわかる。

 

※39,40章とカミーユ主観の章が連続する。第一部の24、25章以来である。ここは理由がよくわからない。カミーユが今現在のアレックスに肉薄したことでこうした構成になったのだろうか。この後の41章でアレックスは「大統領の一行みたい」なカミーユたちを一方的に見かけることになる。

 第一部24章ではカミーユはアレックスに思いを馳せ二人は重なった。41章ではそれとは知らずにアレックスはカミーユを見る。つまり生きているアレックスとカミーユはこの41章での邂逅が最初で最後となる。そういう意味で二人が繋がる瞬間としての構成なのかもしれない。たぶん合っていると思うがこのあたりは作者に聞いてみたいところだ。

 

41A、殺害したフェリックスの家から逃走。

 車に乗ったカミーユを見かける。

 

42C、トランクルームでカミーユは女の私物を見るが手がかりにはならない。

 カミーユは絵を手放す算段をしている。

 

43C、捜査は行き詰る。ル・グエンは上層部からの圧力を受けている。

 

※42、43章もカミーユ主観の連続する章になる。

 

44A、アレックスは「クロエ」と名乗って逃避行を企てるように見える。

 ヒッチハイクで国外へ出ようとするが道中、乗せてくれたトラックの運転手ボビーを濃硫酸で殺害する。ボビーは清貧の善人として描かれているがアレックスは無慈悲に殺す。

 そしてそこからの逃走の途中、初めて自分で「アレックス」と名乗る。

 

45A、スイスへ逃亡するように見える。逃亡先でも金は必要なのに高い旅行かばんを購入する。ボウモアを一瓶買ってみたり、私物を処理する。アレックスは泣く。

 そしてホテルで熱いシャワーを口に浴びる。

 

※44、45章は最初で最後のアレックス主観の連続だ。

 45章でアレックスは死に向かい始めていることがわかる。行動的だがその様子は弱弱しい。私物を処分する様はアレックスの人生の小さいけれど確かにあった小さなきらめきの時代との決別だ。この復讐を開始したときからこうせねばならないと決めていたに違いない。アレックスは自分の人生を破壊され、しかし生きて、生きるために復讐し、復讐のために犯した罪のために死ぬのだ。それはどこにも出口がない輪廻のような閉じた輪に違いない。

 そして章の最後で熱いシャワーを口に浴びるのだがこれは、殺害道具である濃硫酸を熱湯に模した贖罪行為だろう。

 

46C、カミーユはトラウマの根源である母のアトリエに行く。なぜトラウマかといえば母のアトリエは妻イレーヌの遺体発見現場だからだ。

 

47A、アレックスは兄へ電話をする。繋がったのは留守番電話だ。

 アレックスへの加害者(買春者)はもっといたようだ。アレックスは数少ない良い思い出と対比させるようにして孤独を感じる。

 

48C、カミーユは母のアトリエで妻イレーヌと生まれてこれなかった子供(胎児)を想い、孤独感とともに泣く。

 

49A、アレックスは自殺する。

 

50C、カミーユたちはアレックスの死体と対面する。

 

※第二部はここで終わる。

 後半の41章からはカミーユとアレックスの対比・シンクロが頻繁になる。

 整理する。

 

41Aでアレックスがカミーユを一方的に目撃する形ではあるが最初で最後の出会いをする。

 

42Cでアレックスは私物の一部「思い出」をもう手に取り戻すことはないとして預けているし、カミーユも絵「思い出」を手放す算段をしている。「思い出」は彼らの「忘れがたい過去の素晴らしい時」のメタファーだ。そしてその「思い出」が現在の彼らの苦しみの根源でもある。

 

44A、45Aでアレックスは自分の最期の場所に来ている。

46Cでカミーユは、自分の心が死んだ場所である母のアトリエに来る。

 

47Aでアレックスは良い思い出と孤独という相反するものをかみ締める。

48Cでカミーユは妻と子供を失った孤独に向き合う。

 

49C、アレックスは自殺して過去の自分から解放される。

50、過去の自分と別れたアレックスとカミーユは生死の違いはあるが対面する。

 

アレックスにとっての私物は思い出であり、カミーユにとっての絵と亡き妻、子供はやはりいい思い出だ。

しかし同時にそれらはすでに失われた幸せ、あるはずだった幸福であり孤独の象徴となっている。二人は別の場所だが同じことで泣く。

 

アレックスは犯した罪のために死に、カミーユは死んでいた自分から立ち直り生き返る。

再生と死が交錯する第二部の後半である。

 

次は第三部を分析する。

 

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