〜プロットから読む ぢ莪貮分析〜 「その女アレックス」ピエール=ルメートル 橘明美【訳】 文春文庫 「ALEX」 Pierre Lemaitre

評価:
ピエール ルメートル
文藝春秋
¥ 929
(2014-09-02)

 【第一部のあらすじ】第一部 1章〜25章(計25章) 頁数174

 

 捜査が進まず歯がゆいカミーユと危機的状況に拍車が掛かるアレックス。

 しかし捜査が進むにつれだんだんとアレックスが誘拐されたのは何かしら理由があるのではないかと思わせる。逆に誘拐犯であるトラリユーにはなにか犯罪を選択せざるを得ない理由、アレックスを標的にするべき理由があったのではないかと思わせる。

 

 そしてアレックスはただのか弱い女性ではない、秘密を持った恐るべき女かもしれない、というところで第一部は終わる。

 読者はアレックスの正体というクリフハンガーに向かった状態で第一部の終わりをみる。

 

 

 

第一部の章ごとの内容を羅列する。

章の番号の横のアルファベットはその章の主観を表す。

A:アレックス、C:カミーユ

 

※で分析、注釈を挿入する。

 

1A、アレックスの街歩き描写。ビストロの客として3人目の被害者(アレックスにとっての標的)であるフェリックス=マニエール登場。バスに乗車するのを止めて歩くことにする。

 アレックスは暴力を受け拉致される。

 

※この時点でアレックスは非常勤の看護師という仕事の割りに、金に余裕のある様子が描かれおり「物語上のアレックスに対する微妙な違和感」を描いている。

 

2C、拉致事件の捜査開始。

 カミーユには捜査の指揮を執る上で問題がある。

 それは妻イレーヌの誘拐・殺害された過去だ。画家である母親、絵画についても描写がある。

 口うるさい上司、ル・グエン、上流階級出身の優秀な部下ルイ登場。

 

※この1、2章で物語に必要な要素はほとんど出てくる。

 アレックスとカミーユという主人公。アレックスの標的と殺された被害者(の父親)、カミーユの殺された妻イレーヌと画家である母親その作品、カミーユは絵の才能をおそらく引き継いでいる。そして暴力描写。

 これは伏線だけではなく物語のテーマともいえる部分で、この導入部分でキャラクターを立てテーマを出し、しかも説明っぽくならずに物語に引き込んでいく恐ろしいほどの作者の力量が見える。

 2章P.31で気になる点があった。突然ルイの主観が入ってくる。フランス語から日本語への翻訳の関係だろうか?ところどころルイの主観を持つ。日本の小説では同一章内での主観の変更はタブーとされているが。

 

3A、アレックスが拉致されて恐怖に怯えながら誘拐犯(ジャン=ピエール=トラリユー)と対面する。

 誘拐犯「淫売がくたばるところを見てやる」

 

4C、捜査班に手がかりがない。

 カミーユはアレックスがバスに未乗車の件をみつける。

 

5A、アレックスは勇敢にも一度逃げ出す。しかしすぐに誘拐犯に捕まり木箱に閉じ込められる。

 

6C、バスの件から監視カメラを確認。白いバンをみつけるが決定打にはならない。カミーユ、一時帰宅。

 

7A、アレックス、木箱に閉じ込められた恐怖。

 

8C、カミーユは捜査班への増員を要求。アルマン登場。

 アルマンはケチでたかり屋だが捜査の虫。画家としてのカミーユの母とその絵画を尊敬している。

 

9A、アレックスにはドッグフードと水が与えられる。死にたくはないが、死を先延ばしにされる恐怖。

 

10C、捜査は足踏みのまま4日経過。

 突然誘拐犯の名前ジャン=ピエール=トラリユーだと判明する。

 

11A、アレックスは木箱の中で母と兄のことを考える。回想で兄はアレックスの睡眠薬服用を非難しビンタする。アレックスは兄をなだめようとしたが兄の髪の毛を抜いてしまう。

 そして突然、謎だった誘拐犯の正体がわかる。パスカル・トラリユーの父親だ。

 新たな恐怖、ねずみが登場。

 

※11章は母兄の話題が出てくる。この章は重要な伏線となる。母、兄との不仲、睡眠薬のケース、兄の抜けた髪の毛、アレックスが兄と会っていたという事実。そしてこの伏線を隠すかのように誘拐犯について新たな事実を捜査班が突き止めるなど新たな情報をあふれさせている。

 

12C、アルマンが誘拐犯を探り当てた。

 予審判事ヴィダール登場。

 ヴィダールの指揮ミスから捜査班は誘拐犯トラリユーを取り逃がし、死なせてしまう。

 トラリユーの携帯電話をみつける。

 

13A、アレックス、ねずみの恐怖。

 

14C、捜査班トラリユー家に踏み込む。パスカルという息子がいることがわかる。

 

15A、ねずみの恐怖、誘拐犯トラリユーが帰ってこないため衰弱、餓死の恐怖に怯えるアレックス。

 

16C、カミーユは予審判事ヴィダールにつっかかる。

 トラリユーの身の上は捜査で次々判明するが拉致事件の動機がわからない。

 

17A、アレックスは木箱の中で寒さに震えている。そして徐々にねずみたちが優位に立ってくる。

 

18C、捜査班は得られた材料から拉致された女(アレックス)はただの被害者ではないのではないかと思い始める。

 

19A、アレックスは自分の体を傷付けはじめる。

※この時点ではアレックスの意図はよくわからない。(クリフハンガー)

 

20C、捜査班はトラリユーの元妻を聴取する。

 トラリユーによるアレックスの誘拐はこの女が首謀とわかる。

 

21A、アレックスは自分の体を傷付けて出た血液を木箱を吊るしたロープに染み込ませる。

 獲物(アレックス)の前でお預けを食っていたねずみは嬉々としてロープを齧り始める。

 

※21章でアレックスは危機的状況ながらもねずみに対して能動的に立ち向かい始める。1〜13章までアレックスはただの被害者にしか見えない。

 しかし徐々にカミーユたちはアレックスが単なる誘拐の被害者ではないと気付く。

 そしてパスカル=トラリユーの失踪とアレックスの関係が事件に結びついているのではないかと推測する。

 ここまで来て作者はアレックスにねずみに対する戦いを始めさせる。

 ここでアレックスの物語上の役割が被害者から強靭な精神力、意思を持った犯罪者へと変わっていく。

 

22C、ジャン=ピエール=トラリユーの携帯電話に残された通話記録からサンドリーヌという女にたどり着く。

 ナタリー(アレックスの偽名)のルームメイトである。

 その家からパスカルの遺体発見。

 遺体はひどく損傷している。

 

23A、アレックスは木箱の中に閉じ込められているにも関わらずねずみに対して精神的に優位に立ってきている。

 

24C、カミーユはナタリー(アレックス)の部屋で仮眠を取る。

 そしてナタリーとイレーヌを重ね合わせる。さらにカミーユは自画像を描くことで自分も重ね合わせる。

 

25C、パスカルの検視結果。

 生きたまま口から濃硫酸を流し込まれている。

 カミーユは同じ手口の事件をル・グエンに告げる。11年前、一昨年(被害者名ガテーニョ)、さらにそれから8ヵ月後(被害者名マシアク)と同じ殺され方だと。

 そしてとうとう女の居場所・監禁場所を突き止める。しかし女の姿はもうなかった。

 

 女(アレックス)は追い詰めるべき対象としてカミーユたちの前に浮かび上がってきた。

 

※1章から23章まで主観がアレックスとカミーユの交互になる。

 24、25章で初めてカミーユの主観が連続する章となる。

 24章は特殊な章でカミーユの主観であるのは間違いないのだがカミーユが自画像を描くことによって自分を客体化している。カミーユとイレーヌ、そしてアレックスが奇妙なつながりを持つ。

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