〜プロットから読む ネタバレ・あらすじ・感想〜 「その女アレックス」ピエール=ルメートル 橘明美【訳】 文春文庫 「ALEX」 Pierre Lemaitre

評価:
ピエール ルメートル
文藝春秋
¥ 929
(2014-09-02)

 どうということもない我が半生の外国文学読書歴を振り返ってみると小学生の頃はモーリス・ルブランの「アルセーヌ・ルパンシリーズ」、もうちょっと大きくなって高校生ぐらいでは大江健三郎を読み込んでおりました影響でドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」とか「罪と罰」なんぞ読んでおりました。


 結構読んでるじゃん、と思われた方は素直ないい方です。

 そうです。まぁまぁ読んでますね。

 

 他にもスタンダールとかヘミングウェイとか、ちょっとマニアックなところではジャック・ケッチャムとか…。
 しかしですね、はっきり言ってそのほとんどがかっこつけで読んでおったというのが真相でありました。

 格好をつけて読んでいた割には何を読んでいるか周囲に本のタイトルがわからないようにブックカバーを必ず付けているというかたちで、思春期のかっこつけというのはなんとも珍妙なものであります。


 話を戻します。「その女アレックス」は私の浅い、外国産小説読書歴の中では間違いなく一番面白かったです。
まぁ「その女アレックス」はミステリーでエンターテイメント小説ですからドストエフスキーなんかと並べて語るな、と怒らてしまうというか呆れられてしまう気もしますが面白くなければ誰も読みませんからね。
 もしストーリーを知りたくない方はここまで読んだらわたしに騙されてください。そしてとりあえず「その女アレックス」を読んでください。文春文庫で作者の名前はピエール・ルメートルです。

 

 もう読んだ方や、いわゆる「ネタバレ」してもいいよという方はこのまま読み進めてください。
「その女アレックス」は現代のフランスを舞台にした犯罪ミステリー小説です。


 ウィンドウショッピングを楽しんでいたアレックスが見知らぬ男から突然の暴力を振るわれ拉致されます。そしてどこともわからない廃屋に連れ込まれ、裸で木の檻に閉じ込められ吊されます。
一方、この誘拐事件を追う刑事が登場します。極端に背が低く癇癪持ちで皮肉屋のカミーユ・ヴェルーヴェン警部。手掛かりがほとんどない中を苛立ちながら捜査します。
 このカミーユは数年前に妻子(胎児)を惨殺されておりそのトラウマから長らく第一線を退いていましたが上司ル・グエンの強引な要請により捜査に復帰します。
 アレックスは木の檻に閉じ込められたままドッグフードで命を繋ぎます。
 カミーユは捜査班にかつての部下を集めます。裕福な家柄のルイ、吝嗇家のアルマン。捜査陣は小さな手掛かりを元に誘拐犯を突き止めます。
 しかし捜査の不手際からその誘拐犯を死なせてしまいます。振り出しに戻った捜査といたずらに過ぎる時間。被害者の命の危険が増します。
 アレックスは誘拐犯が死んだことを知りません。そして新たな敵が現れます。ネズミです。檻に閉じ込められたままアレックスの絶望的な戦いが始まります。
 捜査陣はひょんなことから監禁場所を突き止めます。現場に踏み込むと中はもぬけの殻で被害者のはずのアレックスはいなくなっていました。


 捜査陣は被害者でありながら逃亡したアレックスが只者ではないことを確信します。
 そして死んだ誘拐犯の身元調査の結果、一人の男の遺体を発見します。それは誘拐犯の息子でした。
 アレックスは逃げ、体力を回復します。そして自分の周囲に捜査の手が及んでいないことを確認します。
 捜査班は女、アレックスが何者かもわかっていません。
 そんな中アレックスは連続で殺人を犯します。そしてその遺体を次々発見する捜査陣。アレックスは相手を油断させ、瀕死の状態にしてから口に濃硫酸を流し込むという残忍な殺人方法を採ります。
 捜査陣は少しずつアレックスに迫ります。しかし、アレックスがどんな人物なのかはわかりません。
 アレックスは兄に母に電話で連絡を取り唐突に自殺します。
 捜査陣はやっとアレックスをみつけますが物言わぬ死人としてでした。


 捜査班はアレックスの遺品、身辺調査からある事実を見つけます。それはアレックスがティーンの頃に兄からレイプされていたこと。さらに兄はその妹を知り合いや友人たちに貸していたこと。そして母と兄はアレックスの性器を硫酸で焼いていたこと。
アレックスが殺したのは当時彼女を買っていた者達でした。
 捜査班は兄にアレックスへの性的、身体的虐待と未成年者への売春斡旋という真実の罪と「妹殺し」という濡れ衣を着させるために執拗な心理戦を仕掛けついに勝利します。
 カミーユは捜査の課程で過去と向き合い、変わらぬ仲間達の支えに気付き立ち直ります。

 

 長々となってしまいましたがあらすじを書きました。

 
 私にとっては久々に「続き」が気になる本でどんどん読んでしまいました。


 物語は全体が三部で構成されていて、その中をさらに細かく章分けされています。
 その章は第一部、二部では主観がアレックスとカミーユたち捜査陣のものが交互に書かれていて文章量としては短く、緊迫した雰囲気が伝わってきます。
 第三部では前半二部で描かれた謎が解明されていく、いわゆる伏線の回収が見られる面白さがあります。
 そしてそれら小さな章の中に大小のフックやクリフハンガーが仕掛けられています。そのため次がどうなるのか気になってくるようになっていて一気に読ませます。そのフックやクリフハンガーは事件の謎だったり、暴力だったりグロテスクな部分であったりします。それらが細かく、過剰にならないように絶妙に配置されています。
 もし可能なら作者のプロット作りを見てみたいものです。


 ところで外国小説の敬遠理由に、カタカナの名詞があると思います。
 どういうことかというと…
「マーガレットはニューオリンズにあるガソリンスタンドで友人のマイケルに会うとその足でニューヨークへ向かった」
 まあ、なんというかどうでもいい例文ですがカタカナっていうのは字数の割に情報が入ってこないと言うか文字自体に意味が込められている漢字の偉大さがわかるというか…。カタカナを追っているうちに疲れてくるんですね。
「その女アレックス」はそういう意味ではフランスが舞台ですからカタカナだらけです。しかも義務教育で曲がりなりにも学んできた英語ではなくて縁も縁もないフランス語ですから私にとってはさらに斜め上なカタカナが多くて独特な音感だらけです。トラリユーとか、ヴェルーヴェンとか、ル・グエンの「ル・」ってなんだよ?と、かなりムムムな感じです。


 しかし読んでいてそこはほとんど気にならなくなります。その理由の一つはキャラクターが立っているからです。
 まず主役がはっきりしている。シリアルキラーのアレックスと癇癪持ちの皮肉屋だが有能なカミーユ警部、その部下たち、上司たち、また殺される側の人間もそれぞれ性格がしっかりとしています。
 退屈な外国小説だと個性のない登場人物が何人か出てくると誰が誰だかわからなくなってジョンだか、スティーブだかどうでもいい!となってしまうのですがこの小説に関してはキャラクターが立っているのでその辺りはわかりやすいのではないかと思います。(手前味噌ですが当ブログに登場人物の関係をざっくりまとめた記事もありますので読み終わった後にでも参照いただければと思います)


 キャラクターに関連してもうひとつ。主要なキャラクター達は登場したときと読後では大きく印象が変わります。善と悪、負と正、そういったものが逆転してきます。例えばアレックスは始め完全な被害者です。しかし、それが実は殺人者の顔を持ち始め、シリアルキラーになり、そして最後は弱々しい自殺者になります。光の当て方によって一人のキャラクターに様々な面があり、それがキャラクターの深みとなっていきます。予審判事ヴィダールというカミーユにとってどうにも我慢ならないキャラクターが出てくるのですが、最後には意外やカミーユの話に乗り応援するようになり、その変わりざまというか自分と同じにおいを嗅ぎ取りカミーユが狼狽えるところなどはまさに小説ならではのモノローグの面白さではないでしょうか。
 ミステリー小説の重要な要素の一つに伏線の提示と回収があると思います。いわゆる謎解きですね。これもしっかりしています。
謎解きでやってはいけない、タブー、禁じ手とされているものがあります。それは「魔法」と「後出しジャンケン」です。
 この「魔法」というのは、人智を越えた不思議な(辻褄の合わない)未知の力で以て提示されていた謎が解明されてしまうことを言います。
 ミステリーではないので全然オッケーなんですがギリシャ神話などを読んでいるとこのパターンですね。人間が苦しみもがいていたら神様が現れて人智を越えた力で話を終わらせちゃうやつですね。これをミステリーでやってしまうと読者は「なにそれ?」となって離れてしまいます。


 もう一つは「後出しジャンケン」です。物語の後半、それまでに提示された数々の謎を突然現れた新たなキャラクターや証拠が突然出てきて解決、話を終わらせてしまうことです。
例えば二時間ドラマで殺人事件を題材にしていて、最後残り五分で初めて出てくる俳優が真犯人だとしたらがっかりして「なんだよ、それ」となります。
 逆に成功例は、「冒頭からガンガン登場していたあの人が犯人だったの?びっくり!」という形です。
 こちらの後出しジャンケンは取り扱いが難しく、伏線とか片鱗のような形でできれば冒頭に近い位置で匂わせておくべきです。しかし、それを読者が気付かないこともあり、出し方は微妙で書き手の技量、プロットの練り具合に依ります。
「その女アレックス」でも謎が出てきます。そして伏線も綿密に張られています。それらは後半で解明され、さらにプラスアルファの解決が見られます。


 作者は伏線の張り方も巧妙で振り返って読んでよくわかったのですが伏線が現れる箇所では必ずその他の情報の密度を上げて読者に伏線のありかを気付かせないようにしています。これはまさに「後でびっくり!」のパターンで読者は知っていたけど気付かないようになっています。しかし後出しジャンケンではないので納得がいく解決が見られます。

 

※更に詳しく「その女アレックス」のプロットを読み解いた記事(全6記事です)も書きましたので、興味の湧いた方や小説の作りに興味があるという方はもしよかったらこちらもご覧ください。


〜プロットから読む 々柔〜
〜プロットから読む 登場人物の変化=大胆な展開〜

〜プロットから読む 整理〜

〜プロットから読む ぢ莪貮分析〜

〜プロットから読む ヂ萋麌分析〜

〜プロットから読む β荵杏分析〜

 

 最後にこの小説の受賞歴をご紹介します。こういうのみんな好きですからね。

 

・2015年本屋大賞 翻訳小説部門

 

・週刊文春 ミステリーベスト10

 

・このミステリーがすごい!

 

・「IN☆POCKET」文庫翻訳ミステリーベスト10

 

・「ミステリが読みたい!」

 

・リーヴル・ド・ボッシュ読書大賞(フランス)

 

・英国推理作家協会インターナショナル・ダガー賞(ドイツ)

 

 こういう賞を当てにして本を選んだことはないですがやっぱり面白いものは選ばれるんですね。
 この小説を読んですばらしいよく練られた構成は強固な物語を生み出すことを痛感しました。
 今後はこういった構成というものをより意識していきたいと思います。
 というわけで、この感想文も意識的に四部構成にしてみました。
 はじめにこの本との出会い、二部であらすじ、三部で面白い部分について書き、四部がいま、これから自分がこの小説と出会って何を得たか、という形にしてみました。

 

 またこういう本に出会いたいですね。

 

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〜プロットから読む β荵杏分析〜 「その女アレックス」ピエール=ルメートル 橘明美【訳】 文春文庫 「ALEX」 Pierre Lemaitre

評価:
ピエール ルメートル
文藝春秋
¥ 929
(2014-09-02)

第二部の終盤でアレックスが自殺したため第三部の主観は基本的にはカミーユたち捜査陣のものになる。

この物語はミステリーであるため、主観は取るが謎(伏線)は謎のまま、真意を明かさないまま話が進む部分がある。このあたりはミステリーならではだろう。

 

【第三部のあらすじ】第三部 51章〜62章(計12章) 頁数112

 アレックスの母と兄の事情聴取をする捜査陣。

 アレックスの遺品から母と兄の妹を食い物にした非道な買春斡旋と近親相姦、アレックスへの虐待に気付く捜査陣。

 正義の名の下、カミーユたちはトマにアレックス殺害の罪をかぶせる。

 カミーユは仲間がずっといてくれたことに気付き立ち直る。

 

 

では、章ごとの筋を見ていこう。

 

 

51、予審判事ヴィダールから犯人アレックスの死という結果を突きつけられカミーユは事実上の辞職勧告を受ける。

 

52、アルマンがアレックスの最後の私物をみつける。

 

53、カミーユは競売による母親の絵の売却金28万ユーロをどうするか悩む。

 アレックスの母、プレヴォ夫人を呼び出し聴取する。

 

54、アレックスの兄トマ=ヴァスールの聴取。

 ルイはアレックス誘拐犯ジャン=ピエール=トラリユーの通話記録からすでにトマと一度会っている。

 ル・グエンは上層部と捜査班の間に立つと腹を括った。それは上からいろいろ言われているカミーユを引き上げるためだ

 兄トマとパスカルは中学時代の知り合い。

 アレックスの断片的な日記にはトマが来ると記載がある。これはトマがアレックスをレイプしていたのではないかとカミーユは考えている。

 

55、トマに被害者の確認をする。

 被害者全員とトマには接点がある。

 アレックスの怯えたような写真、トゥビアナ嬢の証言からアレックスが13歳のときに何かあったと推測するカミーユたち。

 

56、ザネッティ夫人の情夫だったフェリックス。そしてフェリックスを繋ぎ留めておくためにザネッティ夫人はトマからその妹を買い、フェリックスにあてがった、と推測する捜査陣。トマは妹を「貸し出し」ていたと推測する捜査陣。

 トマ「なぜ私がそんなことを?」

 

57、アレックスの性器は酸で焼かれていた。

 プレヴォ夫人にアレックスの焼け爛れた性器について聞き取り。

 プレヴォ夫人は準看護師として働いており処置ができたはずだった。

 トマは妹アレックスが自分で売春をしていたのではないかと臭わす。

 

※55章のトゥビアナ嬢の証言と照らし合わせるとアレックスは1986年ごろから1989年ごろまでトマにレイプ・貸し出しをされている。1989年に性器を酸で焼かれたのは妊娠を隠すため?

 

58、捜査陣はトマにアレックスから強請られていたかと訊ねる。警察留置24時間が始まる。

 

59、カミーユはトマと弁護士が面会する間、一時帰宅する。

 母の自画像が一枚送られてきている。ルイの仕業だと思う。

 トマにアレックス殺害容疑を掛けていく捜査陣。

 

※カミーユたちは真相に近づくにつれトマの悪業に気付く。そして正義のためにトマをはめようとしている。ヴィダールがこの案に同調したときカミーユは居心地の悪さを感じる。

 この後、カミーユはルイへの感謝を(図らずも)吐露し、アルマンに感謝し、ル・グエンとの友情を感じる。つまりカミーユは孤独でもなんでもなく仲間はもういたのだ。

 

60、トマは捜査陣に追い詰められでっち上げのアレックス殺害容疑を掛けられ弁解したくてしょうがない。

 カミーユはルイに絵のお礼を言おうとするがルイの仕業ではなかった。そして話の流れでルイへの感謝の念に気付く。

 警察留置はさらに24時間延長される。

 

61、アレックス殺害容疑についてトマはアレックス「達」、捜査陣の罠だと気付く。

 しかしもう遅かった。アレックスが用意した髪の毛のDNA鑑定は完了し、「いるはずのない」トマの毛髪がアレックスの泊まった部屋で見つかっていたのだ。

 

62、母の自画像を送ってきたのがアルマンだと気付くカミーユ。けちでたかり屋で金にみみっちいアルマンが競売で大枚はたいて買い戻したのだ。カミーユはそのけち振りを知っているだけにアルマンを尊敬する。

 ヴィダール「我々にとって大事なのは真実ではなく正義」

 

 

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〜プロットから読む ヂ萋麌分析〜 「その女アレックス」ピエール=ルメートル 橘明美【訳】 文春文庫 「ALEX」 Pierre Lemaitre

評価:
ピエール ルメートル
文藝春秋
¥ 929
(2014-09-02)

【第二部のあらすじ】第二部 26章〜50章(計25章) 頁数144

 アレックスは監禁から脱出する。

 捜査陣は「女」を追う。

 捜査を尻目にアレックスは次々と殺人をする。

 カミーユは母と妻と子供の死を乗り越える。

 アレックスは自殺する。

 

 

26A、(25章から少し時間を戻し)アレックスが木箱から脱出。

 

27C、捜査班はアレックスがどうやって逃げたのかを考える。そしてその脱出の仕方からただの被害者ではないと思い知る。

 

28A、アレックスは用心して自宅へ戻る。

 PCで誘拐犯ジャン=ピエール=トラリユーの死を確認する。

 母と兄に連絡を入れる。

 そして自分の痛めつけられた下腹部を見る。自分の人生をそこに見る。

 

※28章は第一部の11章と同じように伏線があらわになっている。母と兄とアレックスの下腹部(性器)、この三つが出てくる。そして兄を追い詰めるために電話をかけている。11章では伏線として回想の形で兄を追い詰めるための睡眠薬や髪の毛の描写がある。

 

29C、25章で名前が出てくる濃硫酸で殺されたガテーニョの妻の聴取。

 ここではレアという名前の女(アレックス)が出てくる。これはナタリーと同一人物だとカミーユは見当をつける。

 

30A、アレックスは休息を取り回復していく。

 パスカルを殺害する様子が回想で描写される。

 そして新たな濃硫酸を作る。

 捜査の手が及ぶことがわかっているアレックスは引越しをする。

 第一章で登場していたフェリックスに近づき誘惑し、気を持たせるアレックス。

 

※ここでは、フェリックスを殺さない。ここで殺してしまうことにより物語が単純化するのを作者が恐れたのか。あるいはアレックスの家のそばだと足が付いてしまうことを恐れたアレックスの計算か。いずれにしろここでフェリックスを殺さず、この後女性(ザネッティ夫人)を殺すことで読者も捜査班も混乱しクリフハンガーとなる。

 

31C、ビストロ店主マシアク殺害についてカミーユは捜査、確認する。

 

32A、アレックスはローラと名乗りホテル・プレアルディにてザネッティ夫人に近づく。

 夫人からダンスホールへ誘われる。

 

33C、カミーユは女(アレックス)がその殺害方法から性被害者であり殺人鬼だと断定する。

 

34A、ダンスホールでの悪趣味なパーティーに参加させられるローラ(アレックス)。

 深夜に帰ってくるとアレックスは唐突にザネッティ夫人を濃硫酸で殺害する。

 

※殺人が突然すぎて驚いてしまう。

 

35C、カミーユは母親から学び、引き継いだ描画術で「女:アレックス」の絵を描く。

 女の脱出または逃亡の手段に不法就労の外国人ドライバーによる白タクを使ったと確信する。

 

36A、アレックスは木箱の檻の悪夢に悩まされる。

 しかしそれを振り払いフェリックスを誘い出す。

 

37C、女が性被害者でその復讐心から連続殺人を犯していると踏んだカミーユは、新たな被害者がザネッティ夫人という「女」でしかも老婆が殺されたことにより自分の推理に説明が付かなくなってくる。また、それをヴィダールは突いてくる。

 捜査は混迷する。

 

38A、アレックスはフェリックスとデートする。

 そしてフェリックスを濃硫酸で殺害。

 

39C、カミーユたちは女を乗せた白タクを突き止める。

 

40C、カミーユたちはアレックスの住まいと引越し業者も突き止める。アレックスがエマと名乗っていたこともわかる。

 

※39,40章とカミーユ主観の章が連続する。第一部の24、25章以来である。ここは理由がよくわからない。カミーユが今現在のアレックスに肉薄したことでこうした構成になったのだろうか。この後の41章でアレックスは「大統領の一行みたい」なカミーユたちを一方的に見かけることになる。

 第一部24章ではカミーユはアレックスに思いを馳せ二人は重なった。41章ではそれとは知らずにアレックスはカミーユを見る。つまり生きているアレックスとカミーユはこの41章での邂逅が最初で最後となる。そういう意味で二人が繋がる瞬間としての構成なのかもしれない。たぶん合っていると思うがこのあたりは作者に聞いてみたいところだ。

 

41A、殺害したフェリックスの家から逃走。

 車に乗ったカミーユを見かける。

 

42C、トランクルームでカミーユは女の私物を見るが手がかりにはならない。

 カミーユは絵を手放す算段をしている。

 

43C、捜査は行き詰る。ル・グエンは上層部からの圧力を受けている。

 

※42、43章もカミーユ主観の連続する章になる。

 

44A、アレックスは「クロエ」と名乗って逃避行を企てるように見える。

 ヒッチハイクで国外へ出ようとするが道中、乗せてくれたトラックの運転手ボビーを濃硫酸で殺害する。ボビーは清貧の善人として描かれているがアレックスは無慈悲に殺す。

 そしてそこからの逃走の途中、初めて自分で「アレックス」と名乗る。

 

45A、スイスへ逃亡するように見える。逃亡先でも金は必要なのに高い旅行かばんを購入する。ボウモアを一瓶買ってみたり、私物を処理する。アレックスは泣く。

 そしてホテルで熱いシャワーを口に浴びる。

 

※44、45章は最初で最後のアレックス主観の連続だ。

 45章でアレックスは死に向かい始めていることがわかる。行動的だがその様子は弱弱しい。私物を処分する様はアレックスの人生の小さいけれど確かにあった小さなきらめきの時代との決別だ。この復讐を開始したときからこうせねばならないと決めていたに違いない。アレックスは自分の人生を破壊され、しかし生きて、生きるために復讐し、復讐のために犯した罪のために死ぬのだ。それはどこにも出口がない輪廻のような閉じた輪に違いない。

 そして章の最後で熱いシャワーを口に浴びるのだがこれは、殺害道具である濃硫酸を熱湯に模した贖罪行為だろう。

 

46C、カミーユはトラウマの根源である母のアトリエに行く。なぜトラウマかといえば母のアトリエは妻イレーヌの遺体発見現場だからだ。

 

47A、アレックスは兄へ電話をする。繋がったのは留守番電話だ。

 アレックスへの加害者(買春者)はもっといたようだ。アレックスは数少ない良い思い出と対比させるようにして孤独を感じる。

 

48C、カミーユは母のアトリエで妻イレーヌと生まれてこれなかった子供(胎児)を想い、孤独感とともに泣く。

 

49A、アレックスは自殺する。

 

50C、カミーユたちはアレックスの死体と対面する。

 

※第二部はここで終わる。

 後半の41章からはカミーユとアレックスの対比・シンクロが頻繁になる。

 整理する。

 

41Aでアレックスがカミーユを一方的に目撃する形ではあるが最初で最後の出会いをする。

 

42Cでアレックスは私物の一部「思い出」をもう手に取り戻すことはないとして預けているし、カミーユも絵「思い出」を手放す算段をしている。「思い出」は彼らの「忘れがたい過去の素晴らしい時」のメタファーだ。そしてその「思い出」が現在の彼らの苦しみの根源でもある。

 

44A、45Aでアレックスは自分の最期の場所に来ている。

46Cでカミーユは、自分の心が死んだ場所である母のアトリエに来る。

 

47Aでアレックスは良い思い出と孤独という相反するものをかみ締める。

48Cでカミーユは妻と子供を失った孤独に向き合う。

 

49C、アレックスは自殺して過去の自分から解放される。

50、過去の自分と別れたアレックスとカミーユは生死の違いはあるが対面する。

 

アレックスにとっての私物は思い出であり、カミーユにとっての絵と亡き妻、子供はやはりいい思い出だ。

しかし同時にそれらはすでに失われた幸せ、あるはずだった幸福であり孤独の象徴となっている。二人は別の場所だが同じことで泣く。

 

アレックスは犯した罪のために死に、カミーユは死んでいた自分から立ち直り生き返る。

再生と死が交錯する第二部の後半である。

 

次は第三部を分析する。

 

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〜プロットから読む ぢ莪貮分析〜 「その女アレックス」ピエール=ルメートル 橘明美【訳】 文春文庫 「ALEX」 Pierre Lemaitre

評価:
ピエール ルメートル
文藝春秋
¥ 929
(2014-09-02)

 【第一部のあらすじ】第一部 1章〜25章(計25章) 頁数174

 

 捜査が進まず歯がゆいカミーユと危機的状況に拍車が掛かるアレックス。

 しかし捜査が進むにつれだんだんとアレックスが誘拐されたのは何かしら理由があるのではないかと思わせる。逆に誘拐犯であるトラリユーにはなにか犯罪を選択せざるを得ない理由、アレックスを標的にするべき理由があったのではないかと思わせる。

 

 そしてアレックスはただのか弱い女性ではない、秘密を持った恐るべき女かもしれない、というところで第一部は終わる。

 読者はアレックスの正体というクリフハンガーに向かった状態で第一部の終わりをみる。

 

 

 

第一部の章ごとの内容を羅列する。

章の番号の横のアルファベットはその章の主観を表す。

A:アレックス、C:カミーユ

 

※で分析、注釈を挿入する。

 

1A、アレックスの街歩き描写。ビストロの客として3人目の被害者(アレックスにとっての標的)であるフェリックス=マニエール登場。バスに乗車するのを止めて歩くことにする。

 アレックスは暴力を受け拉致される。

 

※この時点でアレックスは非常勤の看護師という仕事の割りに、金に余裕のある様子が描かれおり「物語上のアレックスに対する微妙な違和感」を描いている。

 

2C、拉致事件の捜査開始。

 カミーユには捜査の指揮を執る上で問題がある。

 それは妻イレーヌの誘拐・殺害された過去だ。画家である母親、絵画についても描写がある。

 口うるさい上司、ル・グエン、上流階級出身の優秀な部下ルイ登場。

 

※この1、2章で物語に必要な要素はほとんど出てくる。

 アレックスとカミーユという主人公。アレックスの標的と殺された被害者(の父親)、カミーユの殺された妻イレーヌと画家である母親その作品、カミーユは絵の才能をおそらく引き継いでいる。そして暴力描写。

 これは伏線だけではなく物語のテーマともいえる部分で、この導入部分でキャラクターを立てテーマを出し、しかも説明っぽくならずに物語に引き込んでいく恐ろしいほどの作者の力量が見える。

 2章P.31で気になる点があった。突然ルイの主観が入ってくる。フランス語から日本語への翻訳の関係だろうか?ところどころルイの主観を持つ。日本の小説では同一章内での主観の変更はタブーとされているが。

 

3A、アレックスが拉致されて恐怖に怯えながら誘拐犯(ジャン=ピエール=トラリユー)と対面する。

 誘拐犯「淫売がくたばるところを見てやる」

 

4C、捜査班に手がかりがない。

 カミーユはアレックスがバスに未乗車の件をみつける。

 

5A、アレックスは勇敢にも一度逃げ出す。しかしすぐに誘拐犯に捕まり木箱に閉じ込められる。

 

6C、バスの件から監視カメラを確認。白いバンをみつけるが決定打にはならない。カミーユ、一時帰宅。

 

7A、アレックス、木箱に閉じ込められた恐怖。

 

8C、カミーユは捜査班への増員を要求。アルマン登場。

 アルマンはケチでたかり屋だが捜査の虫。画家としてのカミーユの母とその絵画を尊敬している。

 

9A、アレックスにはドッグフードと水が与えられる。死にたくはないが、死を先延ばしにされる恐怖。

 

10C、捜査は足踏みのまま4日経過。

 突然誘拐犯の名前ジャン=ピエール=トラリユーだと判明する。

 

11A、アレックスは木箱の中で母と兄のことを考える。回想で兄はアレックスの睡眠薬服用を非難しビンタする。アレックスは兄をなだめようとしたが兄の髪の毛を抜いてしまう。

 そして突然、謎だった誘拐犯の正体がわかる。パスカル・トラリユーの父親だ。

 新たな恐怖、ねずみが登場。

 

※11章は母兄の話題が出てくる。この章は重要な伏線となる。母、兄との不仲、睡眠薬のケース、兄の抜けた髪の毛、アレックスが兄と会っていたという事実。そしてこの伏線を隠すかのように誘拐犯について新たな事実を捜査班が突き止めるなど新たな情報をあふれさせている。

 

12C、アルマンが誘拐犯を探り当てた。

 予審判事ヴィダール登場。

 ヴィダールの指揮ミスから捜査班は誘拐犯トラリユーを取り逃がし、死なせてしまう。

 トラリユーの携帯電話をみつける。

 

13A、アレックス、ねずみの恐怖。

 

14C、捜査班トラリユー家に踏み込む。パスカルという息子がいることがわかる。

 

15A、ねずみの恐怖、誘拐犯トラリユーが帰ってこないため衰弱、餓死の恐怖に怯えるアレックス。

 

16C、カミーユは予審判事ヴィダールにつっかかる。

 トラリユーの身の上は捜査で次々判明するが拉致事件の動機がわからない。

 

17A、アレックスは木箱の中で寒さに震えている。そして徐々にねずみたちが優位に立ってくる。

 

18C、捜査班は得られた材料から拉致された女(アレックス)はただの被害者ではないのではないかと思い始める。

 

19A、アレックスは自分の体を傷付けはじめる。

※この時点ではアレックスの意図はよくわからない。(クリフハンガー)

 

20C、捜査班はトラリユーの元妻を聴取する。

 トラリユーによるアレックスの誘拐はこの女が首謀とわかる。

 

21A、アレックスは自分の体を傷付けて出た血液を木箱を吊るしたロープに染み込ませる。

 獲物(アレックス)の前でお預けを食っていたねずみは嬉々としてロープを齧り始める。

 

※21章でアレックスは危機的状況ながらもねずみに対して能動的に立ち向かい始める。1〜13章までアレックスはただの被害者にしか見えない。

 しかし徐々にカミーユたちはアレックスが単なる誘拐の被害者ではないと気付く。

 そしてパスカル=トラリユーの失踪とアレックスの関係が事件に結びついているのではないかと推測する。

 ここまで来て作者はアレックスにねずみに対する戦いを始めさせる。

 ここでアレックスの物語上の役割が被害者から強靭な精神力、意思を持った犯罪者へと変わっていく。

 

22C、ジャン=ピエール=トラリユーの携帯電話に残された通話記録からサンドリーヌという女にたどり着く。

 ナタリー(アレックスの偽名)のルームメイトである。

 その家からパスカルの遺体発見。

 遺体はひどく損傷している。

 

23A、アレックスは木箱の中に閉じ込められているにも関わらずねずみに対して精神的に優位に立ってきている。

 

24C、カミーユはナタリー(アレックス)の部屋で仮眠を取る。

 そしてナタリーとイレーヌを重ね合わせる。さらにカミーユは自画像を描くことで自分も重ね合わせる。

 

25C、パスカルの検視結果。

 生きたまま口から濃硫酸を流し込まれている。

 カミーユは同じ手口の事件をル・グエンに告げる。11年前、一昨年(被害者名ガテーニョ)、さらにそれから8ヵ月後(被害者名マシアク)と同じ殺され方だと。

 そしてとうとう女の居場所・監禁場所を突き止める。しかし女の姿はもうなかった。

 

 女(アレックス)は追い詰めるべき対象としてカミーユたちの前に浮かび上がってきた。

 

※1章から23章まで主観がアレックスとカミーユの交互になる。

 24、25章で初めてカミーユの主観が連続する章となる。

 24章は特殊な章でカミーユの主観であるのは間違いないのだがカミーユが自画像を描くことによって自分を客体化している。カミーユとイレーヌ、そしてアレックスが奇妙なつながりを持つ。

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〜プロットから読む 整理〜 「その女アレックス」ピエール=ルメートル 橘明美【訳】 文春文庫 「ALEX」 Pierre Lemaitre

評価:
ピエール ルメートル
文藝春秋
¥ 929
(2014-09-02)

ここでは、この小説をわかりやすくするためにちょっとした整理をする。

登場人物たちの相関関係はそれほど複雑ではないが、カタカナ名前と地名が交錯するとよくわからなくなる。備忘録。

 

・アレックスの偽名とその名前のとき誰を殺したかを記載する。
 

「レア」

エタンプの工場主、ベルナール・ガテーニョを殺害。2005年3/30

 

「エマ」

ランスのビストロ店主、ステファン・マシアクを殺害。2005年11/28

 

「ナタリー」

ルームメイト、サンドリーヌの証言より。馬鹿のパスカル・トラリユーを殺害。2006年7/14

 

「ジュリア」

IT機器会社のサービスマン、フェリックス・マニエールを殺害。

 

「ローラ」

トゥールーズのホテルの女主人、ジャクリーヌ・ザネッティ夫人を殺害。

 

「クロエ」

セミトレーラー運転手、ボビーことロベール・プラドリーを殺害。

 

・トマと殺された買春者の関係

 

「パスカル・トラリユー」

中学時代の知り合い

 

「ベルナール・ガテーニョ」

トマはバイクを購入

 

ボビーこと「ロベール・プラドリー」

ガテーニョの知人

 

「ステファン・マシアク」

トマのセールス顧客

 

「ジャクリーヌ・ザネッティ」

フェリックスの情婦

 

「フェリックス・マニエール」

ザネッティ夫人の情夫

 

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